公的年金は原則65歳からもらえますが、この開始年齢は繰り上げもできれば繰り下げもできます。繰り上げが出来るのであればしたほうが得のように思えますが、そう単純ではありません。
最近は高齢でも働くような社会になってきていますが、この働き方によっても変わってきます。
また、現役世代は私的年金でいかに備えるかもポイントです。
繰り上げ受給のしくみと損得の問題
国民年金からもらえる老齢基礎年金の受給開始年齢は65歳からなので、64歳未満の方はもらうことができません。
老齢厚生年金は経過措置により、生年月日によっては60歳〜64歳で受給開始の方もいらっしゃいますが、65歳からが原則となります。
繰り上げ受給をすると、繰り上げ1カ月あたり0.5%分だけ年金受給額が下がります。
早いうちからもらえるメリットを享受するかわりに年間でもらえる額が少なくなるので、長生きすると年金の総額が少なくなる恐れがあります。
例えば65歳から年額240万円もらえる予定だったのものを60歳から繰り上げ受給する場合、0.5%×60月=30%だけ年額が減ります。つまり年額が168万円に減ります。
78歳時点での年金総額を見た場合、繰り上げしなければ13年間で3,120万円、繰り上げした場合は18年間で3,024万円もらえます。78歳より長生きする場合は繰り上げしたほうが損になります。
寿命が関わることなので予測が難しいですが、もう少しわかりやすい繰り上げの基準もあります。
在職老齢年金の制度に注意!
繰り上げ受給で気をつけないといけない点は、在職老齢年金の制度が適用されてしまったら、せっかく繰り上げても年金が減額されてしまうことです。
一月あたりの年金額である基本月額と、もらっている月給から決まる標準報酬月額が60歳代前半で28万円、60歳代後半で47万円を超えると老齢厚生年金が減額されます。
ただし、職場の厚生年金に加入していなければ老齢厚生年金が減額されることはありません。
再雇用や定年延長などで60歳代の労働力を生かす方向に社会が向かっています。職場の社会保険に加入しているのであれば、繰り上げ受給は得策とは言えません。
60代後半になっても働くつもりであれば、まだ厚生年金の加入は続くのでむしろ繰り下げ受給したほうがいい状況です。繰り下げ受給すると、1カ月あたり0.7%だけ年金年額が増加します。
一方で、シニア起業というのも流行りになっています。豊富な実務経験を生かして事業を起こすのは有意義と言えます。
年金繰り上げ受給との関わりですが、個人事業主として事業を営むか法人設立してその代表者として営むかで方向性が変わります。
法人の代表者であれば70歳まで厚生年金に加入するので、上記と同じく繰り下げ受給も考えたほうがいいです。ただし、事業の業績が悪く代表者報酬も払えないような場合は、個人の財産を確保するために老齢年金をもらっておいたほうがいいと言えます。
一方で個人事業主の場合は、老齢厚生年金が減額されることはないので、繰り上げ受給をして年金をもらいながら事業資金を確保しておくことが考えられます。
ただし好業績が続く場合は個人の合計所得が(事業所得と公的年金の雑所得で)高くなることに注意してください。所得が高くなると、高額療養費制度を活用した時に医療費が高くなるなどの弊害が出てきます。
私的年金で備えておくことも考慮しよう
公的年金を補完する私的年金と呼ばれるものに、確定拠出年金・国民年金基金・生命保険会社の個人年金などがあります。
確定拠出年金は60歳からもらえますし、国民年金基金や個人年金も60歳からもらえるプランがあります。
これらは在職老齢年金制度のように働いたら年金減額ということはありませんので、現役時代からうまく活用することをお勧めします。