年金の金額に影響する物価スライドの動きとは?「マクロ経済スライド」についても解説

物価や賃金に応じて年金額がスライドされる

国民年金、厚生年金などの公的年金の大きな特徴として、物価状況・賃金状況に応じて年金額が動いていくことが挙げられます。

モノを高く買わなければいけない時に多くなるというのはありがたいことですが、実はそれ以外の要因でも年金額は動き、年金の仕組みが理解しづらくなっています。最近の法改正にも関わるので知っておいてください。

物価や賃金に応じて年金額がスライドされる

物価や賃金に応じて年金額がスライドされる

物価・賃金の上下に応じて変動するとなると、2つの要因が関わってきますが具体的にどういう仕組みになっているのか紹介します。

平成12年以前は、年金額は賃金水準に連動していました。平成12年からは物価下落傾向が続き、こちらに連動させた方が支給額は抑えられるため、すでに受け取り始めた年金に関しては物価水準に連動させるようになりました。

そして平成16年以降は物価・賃金の上下変動に応じ、複雑なパターン分けして連動させる特例措置が設けられました。

例えば賃金改定率のほうが物価改定率より小さい場合、ともに下落しているときは物価下落を反映させ、ともに上昇している時は賃金上昇を反映するといった形になります。

 

マクロ経済スライドも併用される

マクロ経済スライドも併用される

平成16年のルール変更ではさらにマクロ経済スライドを併用させるようになります。(適用開始は平成17年)

簡単に言えば、少子高齢化による現役世代の減少・平均寿命の伸びを考慮して調整率を決め、これを年金額に反映させるのです。

このスライドの調整率は少子高齢化を考慮するので、通常は年金額を下げる方向に働きます。

 

原則通りには調整されてこなかった

原則通りには調整されてこなかった

ただしマクロ経済スライドは、その調整率が物価・賃金スライドによる上昇率を下回ったときのみ発動されます。

平成17年の適用開始後、実際に発動されたのはこれまでのところ平成27年の物価上昇時のみです。

 

また、マクロ経済スライド開始前の平成12年〜14年には、合計して1.7%分の物価下落が起きていましたが、経済環境が厳しいため年金額減少がされませんでした。この物価下落による調整分は遅れて平成25年〜27年で解消されました。

平成27年の例で見ると賃金・物価スライド調整率は2.3%でしたが、上記物価下落調整分の解消が−0.5%、マクロ経済スライド調整率が−0.9%であり、0.9%の増額となりました。

 

2つのスライドに対する法改正の動き

2つのスライドに対する法改正の動き

平成28年中に「賃金・物価スライド」と「マクロ経済スライド」の両スライドに関する法律の改正が予定されています。適用開始は平成33年からとされています。

まず前者ですが、賃金改定率<物価改定率であり賃金改定率が−の場合は、これまでは物価上昇の際は改定なし、物価下落の際は物価改定率が調整率となりました。これが改定により、いずれの場合も(小さいほうの)賃金改定率が調整率となり、年金額が少なくなる方向にはたらきます。

野党はこの改正法案を「年金カット法案」と呼んで批判しています。この法案の良し悪しはともかくとして、なぜこのようなルールに改正するのでしょうか?

 

これまでのルールでは、現役世代のもらう賃金に比べ年金の下がり方が小さく、所得代替率(=高齢世代の年金/現役世代の賃金)が年々上がっていく恐れがあります。所得代替率の大きい年は、年金をもらえる高齢者世代が働く現役世代より有利と見ることができます。

高齢者数が増えることで年金給付も増加するのに、高齢者1人あたりの貰う金額が有利になってはおかしいので、世代間格差をなくすための改正ルールです。また厚生年金の保険料が賃金に比例するので、賃下げで保険料が減る場合に給付も減らす目的があります。

さらにマクロ経済スライドも、賃金・物価スライドでマイナスとなり過去発動しなかった分の調整を、賃金・物価スライドでプラスとなった年に適用できるように改正されます。

この年金額改定は話が難しく、また減らし方が大きくなるということで批判が扇動的になりがちですが、まずはルールと背景を理解しておきましょう。