2016年1月に日銀(日本銀行)の黒田総裁は、日本初のマイナス金利政策の導入を発表しましました。
その直後に市場の円相場は1ドル=121円台まで急落し、日経平均株価は前日比で300円以上も急騰しました。
しかし、その後大きく円高に反転したり株価が乱高下を繰り返すなど、市場はこのサプライズ政策の中長期的な影響を読みかねています。では、マイナス金利はどういったものなのか、マイナス金利の意味とその影響について説明します。
マイナス金利ってなに?
日銀が提示したマイナス金利政策とは、日銀当座預金(市中銀行が日銀に預ける預金)に対してマイナス金利を適用することです。
ただし、今回の決定は市場の混乱を避けるため、適用対象は日銀当座預金残高(約250兆円)の全てではなく、新規分(2016年1月時点で約23兆円)のみとなっています。
従来、市中銀行は日銀に資金を預けることで金利を受け取っていましたが、今後は、逆に金利を支払わなくてはならなくなりました。
そのため、市中銀行の企業や家計への貸し出しを促し、うまくいけば企業の設備投資や個人の住宅購入などを促進させる効果が期待できるのです。日銀の思惑もそこにあります。
マイナス金利の導入で懸念されているのが、預金金利がゼロあるいはマイナスになることです。それによって、預貯金の急激な引き揚げが起きるのではないか?との見方もあります。
すでにマイナス金利を導入したスイスなどでは、いわゆるタンス預金が増え、家庭用金庫に買いが殺到しました。
マイナス金利のメリットとデメリット
マイナス金利のメリットとしては、利払い負担が減ることがあげられます。住宅ローンの金利や貸出金利の低下により、住宅投資や企業の設備投資が進む可能性があります。
一足先にマイナス金利を導入したデンマークでは、ビルやマンションの建設ラッシュが起きました。
住宅金利の低下によりマイナス金利の住宅ローン、すなわち利息が受け取れるローンも登場していますし、賃貸よりも買ったほうが安くつくケースが増えました。
しかしその一方で、住宅需要の高まりに供給が追い付かず住宅価格の高騰を招くという副作用も現れています。
銀行側の懸念材料は「収益力の低下」です。
しかし、日本の銀行の財務体質は今のところ健全ですし、今回マイナス金利が適用されるのは日銀に預ける資金の一部に過ぎません。
そのため、現時点で急激な変化が訪れることはないとの見方もあります。しかし、銀行は資金の多くを国債投資に回しており、長期金利がマイナスになる現象が現われています。
このことは住宅購入には追い風となりますが、銀行側がリスクをとらず守勢の資金運用にのみに躍起になれば、肝心な中小企業や個人への資金供給にはつながらず、日銀の思惑は外れてしまうことになります。
投資する際の注意点
マイナス金利政策を実施すれば、基本的には円安へと誘導しやすいためデフレ脱却、輸出の増大、ひいては株価上昇やGDPの拡大が期待されています。
しかし現実には欧州の混乱、中国経済の冷え込み、逆オイルショック、米国金融当局の利上げの見送りなどにより、安全資産である円が買われ、円高・株安というパラドキシカル(逆説的)な動きも現れました。
マイナス金利はメリットがある反面、相応のデメリットを伴う「劇薬」です。
その劇薬のプラス効果を最大限に引き出すには、日銀の今後のかじ取りはもとより市中銀行のリスクをとる積極的な資金運用、政府による適切な財政政策など、様々なレベルでの前向きな努力が不可欠と言えるでしょう。
今後、株式や債券、あるいはFX(外国為替証拠金取引)などに投資する場合には、そうした銀行や政策当局の動きをよく見極めることが大切だと言えそうです。