芥川龍之介が短編小説「白」に込めた思いとは?自身の自殺願望の表れ?

白の自殺決心の描写は芥川龍之介の事故投影?

芥川龍之介の「白」は新潮文庫の『蜘蛛の糸・杜子春』に収録してある一遍です。

短い内容で主人公が白という犬なのですが、人間について考えさせられる示唆に富んでいます。

『白』のあらすじとは?

芥川龍之介小説「白」のあらすじ

白は芥川龍之介の晩年の作品で、不思議と犬嫌いが直った頃に執筆された作品でした。

「白」のあらすじはこんな具合です。あるところに白という犬がいました。目の前で人間に殺される黒い犬を見殺しにして、白は一目散に逃げ帰りました。

自宅に帰ると何故か飼い主は白を「見知らぬ黒い犬だ」と言って、白をバットで殴り石を投げつけ追い払いました。どうやら白は逃げているうちに、黒犬になってしまったようなのです。

飼い主に追い払われた黒い犬「白」は、再び犬が人間に襲われている場面に遭遇します。しかし今回の白は逃げることなく、人間の子どもたちに襲われている子犬を助けました。

それからというもの、白は日本各地で人命救助、猫命救助など手柄をあげます。人を助けてはすぐに姿を消す黒い野良犬の話は、新聞紙面を何度も賑わせました。

疲れ果てて自宅に戻った白は、飼い主の姿を一目見てから自殺しようと決心していました。最後に飼い主である子供の姿を見せてほしいと月に祈ります。いつのまにか眠ってしまった白が目を覚ますと、目の前に飼い主がいて白のことを「白」と呼んでいるではありませんか。黒かった白は、月に願って白い犬に戻ることが出来たのです。

白の自殺決心の描写は芥川龍之介の事故投影?

白の自殺決心の描写は芥川龍之介の事故投影?

この物語で白が人や動物を救助して新聞紙面に登場した土地は、全部で五ヶ所です。それぞれ田端駅、軽井沢、上高地、名古屋市、小田原町城内公園となっていました。

作中に明確な地名として登場するのは、小田原町城内公園です。現在の神奈川県小田原市の小田原城址公園のことで、作中ではここにオオカミが展示されていて、逃げ出したオオカミと白が市街地内で対決して白が勝利しています。

 

小田原城址公園には昭和の時代から動物の飼育がされていたらしいのですが、それより以前の芥川龍之介の頃にオオカミがいたのでしょうか。

オオカミに勝ってしまう白は、けっこう大きな犬だとすると秋田県のようなイメージで見てしまいます。

田端、軽井沢、上高地と、いずれも芥川龍之介が過ごした土地であり、名古屋も小田原についてもおそらく何らかの関わりを持った都市ではないでしょうか。

田端というのは芥川龍之介が居住した滝野川町(現東京都北区)に近い場所で、芥川龍之介が服毒自殺を敢行した場所でした。

「白」の作品中で、白が自殺を決心している描写、これは芥川龍之介の自殺願望がそのまま白に投影されていた結果だったというわけです。