映画化された個性派小説5選(さよなら渓谷、夏のおわり、わたしを離さないで)

小説が映画化された場合、「読んでから観るか、観てから読むか」ということがよく話題になります。

賛否両論あるかとは思うのですが、まずは小説を読んでから映像を観る方がイマジネーションが膨らみ良いと思うのです。

読むことで創られた頭の中の映像と、実際に造られた映画とのギャップを検証するそのような楽しみ方もあります。

5位:『人のセックスを笑うな』(河出文庫)

『人のセックスを笑うな』(河出文庫)

主人公のユリを演じていたのは女優の永作博美さんですが、これが予想以上に奔放で魅力的でした。

挿入歌を口ずさむシーンなど、彼女のチャーミングさが存分に発揮され印象に残っています。

 

20歳も年上の人妻であるユリに想いを寄せる大学生のみるめ役には松山ケンイチが、それに嫉妬するガールフレンドのえんちゃん役に蒼井優など、豪華な役者もそろっていました。

題名をきくと「ん?」と引いてしまうところですが、内容はステキな恋愛小説です。

4位:『夏のおわり』(新潮文庫)

『夏のおわり』(新潮文庫)

瀬戸内寂聴が若かりし時、京都の寺に出家をする以前に書かれた私小説です。

決してゴールの見えない不倫関係、不毛の愛憎劇を演技派天才女優の満島ひかりが見事に演じきっています。

寂聴氏の自伝的な物語であり、彼人のしたたかさ、生きるための力強さを思い知る作品です。

3位:『桐島、部活やめるってよ』(集英社文庫)

『桐島、部活やめるってよ』(集英社文庫)

小説では登場人物ごとに視点を変えるというよく見かける手法ですが、映画でそれをやってのけた作品で、原作がそのまま踏襲されている展開となっています。

ちなみに題名の桐島くんは、バレー部のエースでイケメンで突然に部活をやめたとウワサされる人物です。

しかしながら、友人など周囲の人間が彼のことを語るだけで、舞台の中心には決して登場しないのです。

それだけに読者は「桐島、いつ出てくるのだろう。いったいどんなヤツだ?」と気になって仕方がないのです。

この主人公不在というスタイルが、物語をけん引していきます。ここが朝井リョウの読ませるテクニックです。

映画の役どころでは、映画部のさえない高校生である前田くんを神木隆之介がオチャメな感じで演じています。

テーマとしては、格差社会を高校生の生活で縮小して表現したといったところでしょうか。

2位:『さよなら渓谷』(新潮文庫)

『さよなら渓谷』(新潮文庫)

芥川賞作家、吉田修一の作品です。

昔レイプされた女性とレイプした側の男性がいっしょに暮らし、それぞれが背負ったものから逃れようと、あるいは受け容れ乗り越えようとしているかの人間模様を描いたものです。

内容がヘビーなだけに、小説の文字を追うよりも映像化された作品はどこまでも救いの得られない暗さがあります。

自分の人生をむちゃくちゃにした人間を許せるのか、許すということは自分を否定することになるのではないか、そのせめぎ合いで揺れる心が描かれています。テーマの結論は読者おのおのが出すことになります。

ヒロインのかな子役、真木よう子が物語の終盤でつぶやくセリフは意味深で、後を引くものがあります。読者はこの答えについて考察を重ねることになるでしょう。

1位:『わたしを離さないで』(ハヤカワepi文庫)

『わたしを離さないで』(ハヤカワepi文庫)

作者のカズオ・イシグロは長崎県の出身ですが、幼少の頃に両親とともにイギリスに移住したイギリス籍の作家です。

この作品は、倫理的な観点から社会に一石を投じるような、鋭い視点から描かれたSF小説です。

 

イギリスは、70年代に世界で最初の体外受精でベビーを誕生させた国です。

そんな医療先進国ならではの合理主義、神の領域に踏み込むことへの懸念、近未来で実際に起こりうるかもしれない禁忌について、作品を通してイシグロは警告しているかのように思えます。

出演しているキーラ・ナイトレーの演技は秀逸で、この作品で女優として一皮むけた感があります。

 

映画は、原作に忠実に描かれています。牧歌的で時にノスタルジックな風景、それとは裏腹な主人公たちに与えられたあまりにも過酷な運命にうすら寒い感触が常につきまといます。

いつまでも、その不気味な読後感が残る問題作だといえるでしょう。