通常、生命保険は個人で契約するものですが、従業員の福利厚生のために会社が保険を活用するという方法もあります。
従業員にとっては有り難い制度でしょうが、会社側は活用の仕方を間違えると企業経営を圧迫したり、税負担が増えたりすることもあります。社会保険制度とあわせて考えるべき点を見ていきましょう。
保険料の負担者は
団体保険と呼ばれている福利厚生保険は、会社が保険料を負担するものもあれば、給与から天引きされるものもあります。
前者は会社が従業員全員に強制加入させている場合で、後者は任意加入の場合に一般的です。
従業員本人が天引きで負担する形のものは、従業員が損しているようにも見えますが、個人で加入するより保険料が安く活用する価値があります。
また、会社が従業員のために負担する形でも、上記のように従業員全員が加入するのであれば税制上のメリットを得られます。
税務上の注意点
従業員全員加入の保険を会社負担するのであれば、支払う保険料は経費(税務上の損金)にすることができます。
なお、貯蓄性保険に関しては満期時に戻ってきますので、現預金と同様に資産計上されます。
会社が負担する養老保険で死亡保険金や満期保険金が従業員本人、もしくはご遺族の方がもらえるような契約になっている場合は注意が必要です。
保険料は税務上給与の扱いになり、経費扱いにできますが保険料に対し所得税を天引きしないといけません。また、任意加入の保険についても同様の扱いとなります。
このため、任意加入の福利厚生保険であれば従業員本人負担にしたほうが良いです。本人負担分は従業員本人の年末調整、または確定申告で生命保険料控除として所得から差し引くことができます。
シンプルな中小企業退職金共済
従業員の福利厚生保険(厳密には保険ではなく共済)として、企業の節税対策としても幅広く活用されてい「中小企業退職金共済」というものがあります。
退職金を用意するための共済ですが、国の制度であり掛金の1/3〜1/2程度を助成する制度も活用できます。
掛金は1人あたり5,000円〜30,000円の幅で設定でき、全額経費にできるので節税対策としても多くの税理士事務所が推奨しています。
福利厚生の保険に悩んでいる経営者にとっては、最初に考えておきたい共済と言えます。退職金以外の保険を導入したいのであれば、別の保険を考えましょう。
公的保険料だけでも重い負担に
福利厚生のために従業員に保険をかけることに際して、社会保険のことも考えておいた方がいいです。
給与額のおよそ3割もの保険料となる社会保険料は、従業員と企業が折半して負担します。つまり給与の15%程度は、完全に企業が従業員のために負担しているのです。
昭和30年代は健康保険と厚生年金をあわせて1割程度でしたので、高齢化の流れで強制的に従業員の福利厚生を厚くさせられているとも考えられます。
また、労災保険や雇用保険も社会保険ほどではありませんが企業の負担があります。
例えば20万円の給与に対して概算して3万円もの保険料を従業員の医療・老後・介護・失業・労働災害のために負担しています。
なお、企業が社会保険に加入しないことは、以前であれば年金事務所も黙認していました。
しかし、マイナンバー制度導入前後から、社会保険に加入しない企業には指導をするように変わってきています。名実ともに社会保険は強制的な福利厚生制度となってきています。
給与天引きの生命保険(従業員が負担する保険)であれば別ですが、制度上ここまで負担した上に企業側が負担するのは、安定して利益をあげる余力が無いとかなりの負担になります。
保険は長期的な負担といえますから、民間の福利厚生保険に関しては慎重に考えてください。